Mozilla-gumiリリース直前 Mozilla 1.0

語り手:桃井勝彦 text by 小池和彦
『Software Design』2002年3月号に掲載

Mozillaの開発はようやく1.0のリリースが眼に見える段階にきました。ほぼ毎月のペースで0.9.xのリリースが続いており、順調に行けば2002年4月頃に1.0が出ることになっています。米国Netscape本社でMozillaの開発に参加しており、同時にmozilla.orgと日本のもじら組との橋渡し役にもなっている桃井勝彦さんが来日する機会があったので、Mozilla 1.0をめぐる現在の状況を聞きました。

1.0へ向けての盛り上がり

−−Mozillaの開発もいよいよ来年春の1.0リリースが見えてきました。単なる目標ではなく現実になってきたという感じがします。そこで、開発の現状や今後の可能性といったことについて話していただけたらと思います。

桃井:ムードは来年春の1.0リリースへ向けて大きく盛り上がっています。Netscape社の人間に関しても、11月に開かれた開発者の集まり(Mozilla Developer Day)の参加者に関してもそう言えます。数ヵ月前と比べても雰囲気が違ってきています。Mozilla Developer DayではBrendan Eichが1.0について話したのですが、大きな変更は来年3月にリリースされる予定の0.9.9までにして、そこから1.0リリースまでは安定性やパフォーマンスに関わる修正だけを入れることにしよう、という話になっています。

Mozilla周りで何かを作ろうとしている人たちの数も明らかに増えてきています。mozilla.orgが配布しているものとして、JavaScriptやLDAP SDKなどのコンポーネント、レンダリングエンジンとしてのGecko、ブラウザやメーラを含むアプリケーションスウィートの三つの形態がありますが、これらのどの分野においても参入者が増えています。特にコンポーネントに関しては、ActiveStateがKomodo(*1)という統合開発環境を提供していますし、今年の夏にはOEoneというカナダの会社がLinux 上で動くMozillaコンポーネントを使ったオペレーティング環境を発表しています(*2)。「Mozillaをベースとしながら」ほとんどOSに代わる機能を実装するものです。

(*1) MicrosoftのVisual Studioのような統合開発環境で、PerlやPythonをはじめとする様々な言語に対応しています。(http://www.activestate.com/Products/Komodo/)
(*2) OEoneのWebサイトによれば、OEoneはインターネット機器のベンダーにOEM供給されています。「オペレーティング環境」というのはOSからGUIアプリケーションまでを含めた全体を指す言葉とされます。インターネット・アプライアンスのように操作が簡単でPCのように機能が豊富、というところを目標にしているようです。

−−そのOEoneはどんなデバイスで動くんですか?

桃井:いろんなデバイスに載るようにフレキシビリティを持たせているようです。私はマッキントッシュのようなデスクトップ機でのデモを見ました。ユーザーが必要としているものは何でもMozillaベースで作られているので、外見上ではUnix 機のような感じはありませんでした。

Mozillaとの関わり方

桃井:Mozilla.orgのリーダーを務めているMitchell BakerはMozillaとの関わり方を4つのレベルに分けて説明しています。ソースコードを取ってきて何か作るだけに終わるのが第1のレベル。リリースのスケジュールやバグの状況にも注意を払うのが第2のレベル。この2つのレベルではmozilla.orgへの貢献は何もありません。第3のレベルになると、自分たちの品質管理部門を設けてBugzillaに貢献したり、コードを提供したりします。さらに、Mozillaコミュニティの一員としての意識を持ってほかのベンダーや貢献者に働きかけるのが第4のレベルです。

−−企業だとどのあたりが第4のレベルになりますか?

桃井:企業ではActiveState、OEone、Sun、IBMなどが第4のレベルでMozillaに関わっていると言えます。IBMはアラビア語とヘブライ語のサポート(BiDi)をMozillaに入れてくれました。普通の言語だとテキストは一方向に流れるだけなんですが、アラビア語やヘブライ語の場合、基本的には右から左へと流れるんだけれども一部分だけ左から右へ流れるのです。テキストの中にアラビア数字が入るような場合です。さらに、アラビア語の文字は日本語の文字で言うところの草書体のようなもので、次にどんな文字が続くかによって形が変わります。ですから、この言語に対応するのは簡単なことではありません。Netscapeにはこれに対応する資源はありませんでした。IBMはこの問題について、一企業としてエンジニアを投入し、Mozillaの開発に大きな貢献をしてくれたのです。

1.0へ向けての課題

桃井:1.0へ向けての課題としては、派生アプリケーションの開発のためのAPIの仕様の凍結、メモリの使用量の抑制、パフォーマンスの向上などが挙げられます。APIを凍結するためにはそれに関連するバグをフィックスしなければなりません。メモリは64MのPCでも動くようにすることが目標です。組み込み系でGeckoエンジンだけを使うような場合には32Mが目標になります。パフォーマンスの向上に関しても、Netscapeのスターエンジニアが集まって日々改良に取り組んでいます。

1.0へ向けて近々実装される大きな仕様変更としては、XPCOM(*3)スタイルのプラグインが非推奨になることが挙げられます。Mozillaでは4.xスタイルのプラグインに対するスクリプトでの制御はサポートしないことになって、XPCOMスタイルが推奨されていたのですが、今後は4.xスタイルがサポートされ、推奨されます。

(*3) マイクロソフトのCOMに似た仕組み。MozillaのGUIはXULというXMLベースのユーザーインターフェース記述言語とCSSによって外見が定義され、JavaScriptによって動作が定義されている。JavaScriptのコードはXPCOMの仕組みを使ってコアのコンポーネントが提供する機能を使う。(http://www.mozilla.org/projects/xpcom/)

−−IEでは4.xスタイルのプラグインはサポートされないことになりましたね。

桃井:ActiveXはWindows 以外のプラットフォームでは動かないものですから、クロスプラットフォーム性を掲げるMozillaでは対応のしようがありません。4.xスタイルならどのプラットフォームでも動きます。もっとも、MozillaでもActiveXにラッパーをかけるような方法がありますが(*4)。

(*4) http://www.mozilla.org/projects/plugins/plugin-host-control.html

問題はActiveXのプラグインがどこまで伸びるかですね。でもActiveXが普及したとしても何らかの解決法は出るんじゃないかと思います。

Netscapeとオープンソース

桃井:前のNetscapeの社長のJim Barksdaleがオープンソースを始めた時に言ったことなんだけれど、いま高速道路で自動車を飛ばしていて、5キロ先に大きなコンクリートの壁が立ち塞がっている。まっすぐ行けばぶつかって自滅するのは分かっている。そういうとき何をしたらいいのか、というんです。マイクロソフトはそういう壁なんだと。ブレーキをかけてやめるか、ぶつかって散るかという選択肢しか考えないのは頭脳で対決していないということだ、右や左に曲がって相手の意表をつくのが戦法だ、と彼は言っていました。それで始まったのがこのオープンソースという方法なのです。今の段階ではMozilla はつぶれないところまで来たと思います。つぶれなかったということが重要なことです。そしてIT産業のなかでは、どんな巨人でもどこかでボロが出る時代がきます。

−−それはむしろNetscapeに当てはまっていることじゃないですか?(笑)

桃井:(笑)しかしNetscape内でも純粋に楽しんで開発に関わっている人は多いですよ。Netscapeで働いてるんだけれども、オープンソースの意義を理解した上でやっている人が結構います。例えばNetscapeのビルドは使わないでMozillaのビルドを使っている人とか。そういう人たちは仮にNetscapeがなくなったとしてもボランティアの開発者として残る気がします。いまmozilla.orgで働いている人たちの5割くらいはNetscapeからの給料でやってるじゃないですか。あの人たちはNetscapeの社員だけれども、Netscapeに対してイヤですと言わなきゃいけないこともあるわけです。彼らはNetscapeという企業に対しても対等に、心のままにNOと発することができる。そしてNetscapeも彼らをちゃんと尊重する。このような開発の仕方は完全なボランティアとは違う新しい形のオープンソースですよね(*5)。

(*5) ただし日本のもじら組は完全なボランティアベース。もう古い?

インタビューを終えて

Mozillaの最新のマイルストーンリリースは執筆時点では0.9.7ですが、タブブラウザ機能が実装されたことでようやくIEに対して優位性を主張できるようになってきました。以前は頻繁に起こっていたクラッシュも滅多に起こらなくなっています。最近のMozilla、およびNetscape 6.xは物好き(?)だけでなく一般のユーザーにも推薦できるものになっていると言っていいでしょう。

2000年にMozilla0.6ベースでリリースされたNetscape 6.0には誰もが失望しましたが、Mozilla1.0は本当に完成版と言えるものになりそうです。

Mozillaともじら組ウェブテスト・プロジェクト

2001年8月から12月にかけて、もじら組の有志によってウェブテスト・プロジェクトが行われました(*6)。検索サイトのエキサイトのディレクトリで五つ星が付いているサイト(487件)について、Mozillaでも問題なく閲覧できるかどうか確認しようという趣旨のものです。その結果、約9割のサイトはMozillaでアクセスしてもまったく問題ないことが分かりました。メニューがクリックできない、ページの内容が表示されない、などという深刻な問題は10件に満たない程度でした。これらのサイトに対しては管理者に修正案を示して対応をお願いしているところです。現時点で少なくないサイトが既に対応してくれています。このテストの過程でMozilla本体のバグが見つかり、修正されたケースもあります。

(*6) http://www.mozilla.gr.jp/webtest/finalreport.html

Mozillaの可能性

桃井さんの話にも出てきた通り、Mozillaは単なるブラウザではありません。Mozillaのために作られた様々なコンポーネントは他のアプリケーションを開発するためのライブラリとして使うこともできます。Gimpの開発からGTKが生まれたのと同じようなものです。mozdev.orgへ行けばMozillaのコンポーネントをベースにしたMozilla以外のアプリケーションを開発するプロジェクトが既に50件以上もリストされているのがおわかりになるでしょう。ゲームアプリ、音楽プレーヤからオフィススウィートまで、さまざまなアプリケーションがMozillaの技術をベースに開発されているのです。

今後Mozilla 1.0へ向けてAPIの仕様が固まればこれらのアプリケーションの開発も加速することでしょう。1.0のリリース時には、もじら組としても記念パーティーを主催して盛大に祝いたいと考えています。興味のある方はぜひ参加してみてください。